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MR.BIGニューアルバム 全楽曲解説
ミスター・ビッグ約3年ぶりの9枚目のアルバム「ディファイング・グラヴィティ」。担当ディレクター深民淳による入魂の全楽曲解説!!


満場一致で黄金期の名作群を共に創りあげたプロデューサー、ケヴィン・エルソンが復帰! 
過去最短の準備期間とやたらと濃ゆい実質6日間のレコーディングで完成した『Defying Gravity』はMR. BIGのコアな部分が色濃く出た会心作! 
聴きどころ満載、起承転結もばっちりつけた爆音ロック・アルバムをウルトラ・ロング・ヴァージョンで解説! 



Open Your Eyes

ポール・ギルバート作のオープニング・トラック。MR. BIGのアルバムは1曲めに勝負曲を置くパターンが多いが、今回はちょっと違う。いうなればウォーム・アップっぽいというか、腕慣らし的な印象を受ける曲となっている。誤解を恐れずに書いてしまえば、ポールの曲としては並の出来。これまでのソロで提示してきたものの改良系みたいな感じだ。一部、今回のアルバムは地味という論調があるのはこのオープニングの雰囲気にも起因しているように思う。

でも、最後まで読んでもらえると分かると思いますが、それは誤解ですから。

ポールはソロで日常の何でもない風景をスケッチした曲を書いてきたが、これもその流れを汲んでいる。でもこれがMR. BIGでのレコーディングとなると化けるのだ。まず、スタート早々、長年バンドをフォローしてきたファンはいきなり悶絶する仕掛けが待ち受ける。「OK! We’re Rolling」声の主は今回21年ぶりにプロデューサーに復帰したケヴィン・エルソン。彼らのデビュー作のオープニング・トラック「Addicted To That Rush」冒頭のスタジオ・トークバックが復活しているのだ。エリックが自分のスマホに保存していたものを流用。ここに「OK! We’re Rolling」を置こうとしたエリックのセンス、ファンをいきなり掴みますね。うまい! それでもってエリック様、最初の御発声が「Hit me now!」だからねぇ。カッコよすぎるだろ。

曲調はオーセンティックなアメリカン・ロック・ハード・ロック・タイプで、サミー・ヘイガー期のVAN HALENなんかが得意としていた大陸的なローリング・ナンバー。この爆音ローリング・トラックの上をエリックのヴォーカルが軽やかに飛び回る。曲の肝をしっかり掴んでいるのだろう、アクセントのつけ方が天才的。また、MR. BIGらしい分厚いコーラスの声の基調がパット・トーピー合わせなのも気づくとうれしい仕掛けだ。

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Defying Gravity

2009年にオリジナル・メンバーで復活以降発表された楽曲としては間違いなくTOP3に入る名曲。ワーキング・タイトルは「Vindaloo Rock」。インドのカレー料理に由来する。ポールがポートランドからLAに飛んできて、ビリー、パットとセッションしながら曲作りをした時に、みんなでインド料理を食べに行ってそれが楽しく、翌朝、イントロのフレーズと部分的な構成を思いつきスタートした曲。LA組はインスト・パートのアイデアはまとめたが、最後のキメが作りきれずにいた。アイデアは気に入っていたのでボツらせるのは惜しいということで、未完成版をエリックに投げ、エリックとアンドレ・ペシスが引き継ぎ曲は完成に至ったという。

インド音階を使ったデモ・ヴァージョンからエリックが感じ取ったのはこの曲が持つ疾走感と飛翔感。2014年以降再び人生の転機を迎えていたエリックの心にこの疾走感と飛翔感が思い切り刺さったのだ。いつまでもうまくいかなくなったことを思い悩むより、前進だ!新たな冒険だ!と悟り、この秀逸なコーラス部分を一気に書き上げたのである。この曲自体がエリック・マーティンの所信表明みたいなものなのだ。

一方、インスト・パートに目を向けてみるとまずドラムの疾走感が半端ない。叩いているのはマット・スターだが、そこかしこにパットっぽいクセが見られる。ふたりのドラマー相当ディスカッションを重ねたのだろう。他のメンバーと比べ若く瞬発力のあるマットの特性を最大限に活かし、パワーとスピードMAXの強固なボトムを敷きその上をギター、ベースがかっ飛んで行くのである。ボトムがしっかりしているので、後半からエンディングにかけてのビリーのベースライン、凄すぎ。もう大暴れ状態。音量をあげてこの部分チェックしてみてほしい。

また2分35、36秒あたりでエリックのヴォーカルのみになりインスト陣がブレークするアレンジにも注目してもらいたい。演奏がブレークしたのち、ポールがリズムを刻みつつ演奏が再開するのだが、これ結構難しいです。世界屈指の演奏力を誇るバンドだけに何事もなくグルーヴを元に戻しますが、ヘタレなバンドがこれをやった日には間違いなく破綻するね。

まとめると、最初にインド風フレーズを思いついたポールから始まり、ダイナミックなインスト・パートの方向性をまとめ上げた楽器隊。それを受け自身の所信表明を盛り込みつつ最強のコーラス部分を追加し、ブラッシュアップしたエリック。まさにMR. BIGの良いところが120%盛り込まれた名曲!

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Everybody Needs A Little Trouble

この曲は前の曲と表裏一体といっていいかも。前の曲がエリックの光が当たっている面を描いているとすれば、こっちはダークサイドとまではいかないもののちょいワルのエリックを前面に打ち出した曲。リフ自体はポール由来で前からあったそうで、確かにMR. BIG向きというか、彼ららしい構成。ただし、歌詞は最後の最後でひねり出したものだそうで、それが証拠に、DVD付きヴァージョンのメンバーによる曲解説でこの曲だけ他と違ったシチュエーションで撮影された映像が使われている。要するにスタジオで楽曲解説を撮影した段階ではまさに、最後の一発としてこの曲の作業をしていて、すっ飛ばしちゃったのだ。後になって気がついて焦ったらしいぞ。

演奏は埃っぽく、唸りを上げるブギー調。ポールにこういうリフ作らせたら天才的だ。人生においてどうもトラブルを引き寄せてしまうエリック君が「ま、それも俺の人生」みたいにちょっと自嘲的に歌い上げている。歌詞見てもらうと分かると思うのだが、当の本人、それも望むところ、と思っている節もあったりするわけ。

「Defying Gravity」で現状に留まることなく前進し新たな冒険を求めるみたいに格好つけてしまったことに対する照れ隠しでもないのだろうけど、この2曲が並んでいることに意味がある。そして、PVが作られたのがこの2曲というのにもまた意味があるのだ。

そしてこの頭3曲のみごとな連携にも注目! 単体で聴くとちょっと地味に聴こえるオープニングは「Defying Gravity」を最高の状態で聴かせるための布石となり、続く「Everybody〜」は「Defying Gravity」との対比で輝きを増す。この3曲を3部作として捉えると、今度はオープニングの「Open Your Eyes」が最初の印象と違って聴こえてくるという、配置の妙が見えてくるのだ。

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Damn I'm In Love Again

「リッチー・コッツェンがいた時、僕がリッチーと”Shine”を書いた時、ビリーは、こういった曲はMR. BIGらしくないといったわけさ。”To Be With You”の時もそうだった。でもさ、今回ビリーが持ってきたのはアコースティック・ナンバーでね。それも自分が作った曲ではなく女性ライターとの共作だぜ、それってありか?」エリック・マーティンは僕の前でこう言い切った。ビリー批判とも取れる発言だが、ま、実際そうなのでしょう。エリック・マーティン、言いたいことは心に留めず言っちゃいますから。でも、一方でエリックは本当にムカついていたら、そんなこと僕には言いません。

それがこういう発言をしたということはどういうことかと言えば、なんだかんだ言いつつも気に入っているということ。性格上共作だけど良い曲だったとストレートには言いたくないので、こういう言い方をするわけ。

一方、ビリーもTHE WINERY DOGSで忙しかったし、MR. BIGとは別のプロジェクトも進行中ということもあり、曲書く時間がほとんどない、それじゃあ、ということで女性ライターと共作したと、スウェーデン人の女性ライター・チームが作った曲を何事もなかったように提出。でもビリーがうまいのは、エリックに歌わせたらバッチリだ、という曲をちゃんと選んで出してきている点。そしてビリーの策略通り、このカントリー・タッチのアコースティック・ナンバーは頭の「アゲアゲ3連発」からの見事な場面転換となり、エリック・マーティンのヴォーカリストとしての懐の深さを描き出す結果となった。以前から不仲とか言われている二人だが、実際そういうところは確かに見受けられる。でも結果、この割れ鍋に綴じ蓋みたいな関係がMR. BIGというバンドにあっては良いものを生み出しているという点も見逃せないのだ。

また、この曲をこの位置に置いたのはケヴィン・エルソンのプロデュース・ワークの妙義。うまいなぁ、ケヴィン。ここでこのアコースティック曲を間髪入れずに置くことで最初の3曲が余計目立つようになるのだ。

また、MR. BIGでは珍しいカントリー・タッチのアコースティック曲だったせいもあるのだろうが、今までのアコースティック曲とはどこか印象が異なっているのは何故かと思っていたのだが、よく聴くとバックでストリングスが鳴っている。ポールがこの曲を妙に気に入っていたので彼が何かしたのかと思い後日、ポールにメールで質問したら以下のような答えが返ってきた。「言われて聴いてみたら、確かにストリングス鳴っているね。僕はレコーディングの後すぐにヨーロッパに行ってしまったのだけど、行く前に聴いた時には(ストリングスは)入っていなかった。ポスト・プロダクション段階で入れたのだと思うよ。でもストリングス雇ったって話は聞いていないので、ストリングスの音源使ってPro Tools上で作ったんじゃない?」

そうなるとこれはケヴィンのアイデアか? あまり目立たずひっそり鳴っているんだけど、このストリングス、結構良いアクセントになっているのだ。

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Mean To Me

DVD付きヴァージョンの楽曲解説の中でポールがドラム・パターンはクリスティーナ・アギレラの「******」から拝借とネタばらししているが、もうひとつこの曲のギター&ベースのリフはCHICAGOの大ヒット曲「長い夜/ 25 or 6 To Four」に似ている。「長い夜」のギター・リフはギターを弾いたことのない人でも押さえるポジションを教えてちょっと練習させればすぐに弾けるようになる印象的かつ簡単リフが売りの曲なのだが、これは似ているのだけど、対極に位置する。かなり難しい。ビリー・シーンが同楽曲解説の中でいうように座ってベースをきちんとホールドして、右手の指を4本(通常の指弾きの場合は人差し指と中指の2本がオーソドックス。ビリーは通常もプラス薬指の3本パターンで弾いていますが慣れないと逆にリズムが乱れる結果となる)全部使わないと正確に弾けないと発言。これはちょっと話を盛りすぎのように思うが、実際、正確なビートをキープするのはかなり難儀な1曲。

中間部には短いながらもギター&ベースの早弾きパートも用意されているほか、エンディングのキメも結構細かくて面倒な運指が要求される。

エリックのヴォーカルもこの全体シュレッド気味の曲調に合わせ、かなりぱっきりとクリスピーな歌い方をしている。

この曲が誕生した原点はどこか考えると、2014年にMR. BIGのカラオケ・プロジェクトがあり、メンバーも意外だったようだが、「Going To Underground」(アルバム『Hey Man』収録)が候補曲となり結局、これをリ・レコーディングすることになった。そうした背景があったため、2014年ツアーで同曲はセットリストに復活を果たし、ファンにも受けたし、自分たちも演奏して楽しかったこともあり、ポールの頭の中にそれがインプットされていたということが関係しているようだ。

結果完成した曲は「Going To Underground」どころの騒ぎではなく、演奏の難度はアルバム全曲中最も高い、というより彼らの全レパートリー見渡してもトップクラスの難曲となった。さすがこれはライヴではやらないだろうね。

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Nothin' Bad ('Bout Feelin' Good)

「Damn I'm In Love Again」で引用したエリックの発言には続きがあって「まぁ、ビリーはそれともう1曲スウェーデンの女性ライターが書いた曲を持ち込んできて、もろスウェディッシュ・ポップ(ちょっと意味違うんだけどね)でさ、ほんと、ビリーは以前言っていたことと真逆なことやっているからなぁ・・・」その時はビリーが持ち込んだ曲が2曲あることしか判っていない状態で、しかもタイトルがわからなかったため、最初に試聴用音源が作曲者クレジット無しで送られてきた時はこれがエリックのいう「スウェディッシュ・ポップ」だと思っていた。

はずれました。ポールの曲だった。本作の収録曲中最も作曲曲数が多いのはポールで続いてエリックとなるのだが、ポールが関わった曲は彼のここ3枚のソロに原型を見ることのできる発展型新曲が多いなと思っていたのだが、これは過去に原型を見ることのできない、新機軸。夕食の買い出しに行って帰ってきた時に突然浮かんだフレーズとメロディをスマホに録音し、そこから発展した曲だという。パーツから入った曲だから過去作品にオリジンを見つけることができなかったのだ。

ポール・ギルバートらしいぶっ飛んだ作曲手法だが、確かに歌い出しの部分、ポールっぽくない、どちらかというとこういうメロディを思いつくのはエリックほうが可能性が高い印象。ポールらしくないメロディが突然頭に歌詞付きで浮かんじゃったもので、インパクトが強かったんだろう。

変拍子もからんだMR. BIGらしいキラキラ・バラード的な冒頭部分とミッド8のパワー・ロック・スタイルになるコーラス部。聴いている限りはそんなに違和感がないのだが、これ、エリックのヴォーカル全部取ってバック・トラックだけ聴くことができたらかなり乱暴な繋ぎ合わせであることが判るはず。それを違和感なく聴かせるのだから、やはりエリック凄いなぁ、と。

写真撮影すれば変なポーズばかりして、後でその変なポーズは全部アプルーヴを出さなかったり、ツアー中も本気なんだか冗談なんだか分からない発言・行動でスタッフ一同を混乱させるこまったちゃんなんだけど、MR. BIGで歌わせると本当にうまいなぁ、凄いなぁと今更ながら感心するのだ。

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Forever And Back

そして、この曲がエリックのいうスウェディッシュ・ポップの正体だったのだが、音源だけ先に届いた時から、臭くっセェ〜歌詞だなぁ、と思っていた。ポールの芸風ではないし、パットでもなさそう。じゃぁ、エリックかと最初は思った次第。でもこれが外部ライターの作った曲だった。

ビリーが持ち込んだわけだが、いきなり持ち込むとエリックに噛まれることが判っていたのだろう。先にパットにデモ・テープを聴かせて、彼を味方にしちゃってから、プレゼンしたそうで。その辺、年の功だなと思うのと、やはり長年、バンドを一緒にやっているだけあって、エリック・マーティンを最大限に活用する術を知り尽くしているなぁと感心。

エリック曰く「僕だったらああいう歌詞にはしないけどね」と前置きしながらも実は彼もやってみたら以外と悪くなかった、というより結構良かったかも、と思っている節が見られる1曲。まぁ、「I’ve been a fool to my princess~」なんて臭っセェ〜歌詞を真顔で歌えるヴォーカリストは君しかいないんだ! エリック・マーティン!!

さて、場面転換曲「Damn I'm In Love Again」を挟んでの中間部3連発。難曲「Mean To Me」とミッド・テンポのバラード基調の2曲という構成だったわけだが、それぞれの曲を注意深く見ていくと、実はこれ同じバンドが作って演奏している曲(まぁ、1曲は外部ライターの曲なのだが)なのか、と思い切り“?”となるスキゾぶり。特にバラード基調の2曲は大変スムーズに繋がって聴こえるが、曲の構造自体は大きな違いがあるにも関わらずひとつの大きな流れがちゃんとリスナーに伝わるのはやはりケヴィン・エルソンのプロデュースあってこそ、なのだろう。

2作前の『What If…』はヒット作となったし、優れた作品だったと思うが、今回のアルバムを聴くと、妙にアクが強い印象が強い。『What If…』制作時、ビリーとケヴィン・シャーリーはかなり折り合いが悪かったそうで、今思えば、『What If…』のDVD付きヴァージョンには編集段階ではケヴィン・シャーリーのインタビューも入っていたのだが、バンドからクレームがついて製品版になる際には削除されたことを思い出した。ビリーとしてみればMR. BIGの持つ色合いを勝手にいじるな、という意識があったのかもしれない。

ケヴィン・エルソンがプロデュースを担当した初期4作におけるMR. BIGはやはり、様々な曲調が混在していても、統一感がある仕上がりになっていたと思うが、今回、その統一感がしっかり復活しているのがうれしい。この中間3連発を聴くと、プロデューサーをケヴィン・エルソンに戻した意義、前作『…Stories We Could Tell』では実現できなかった全員が集まってのレコーディングの重要性を実感するのだ。

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She's All Coming Back To Me Now

場面転換パート2。一聴してエリック・マーティン作というのが分かる。ミッド・テンポのロック・トラックで’60’sのフリーク・ビート・バンドのヒット曲にも通じるセンスも持つ小品。再び『Defying Gravity』地味説に話を戻す。ビリー・シーンがTHE WINERY DOGSの2nd『Hot Streak』の制作に入る前にナッシュビルに行ってレコーディングしたことがあったそうで、その時、ナッシュビルのセッション・ミュージシャンたちと話す機会があり、その時、ナッシュビルでセッション・ベーシストをやるなら、5フレットから高いところでは金は稼げないと思え、といった意味のことを言われたそうだ。どういうことかといえば、低音部でしっかり弾けないベーシストは用無しってこと。ビリーは知っての通り、高音部を多用するプレイヤーなので、まぁ、暗にあんたみたいなタイプはナッシュビルじゃ仕事ないよ、と言われたのも同然なわけ。ビリー、これにカチンとくるのと同時に何か感じるものがあったのだろう。『Hot Streak』から低音部の使用比率がグーンと上がり、ボトムが太いベース・サウンドへ変化していったのだ。低音パートに使用が増えると全体の迫力は増すが、高音部をガリガリ弾く時のような派手さは逆に減少する。

最近はmp3とかに変換してスマホやポータブル・プレイヤーで聴く人が増えているので、その聴き方だとベースは余計引っ込んでいく傾向になる。『Defying Gravity』というアルバムは地味どころか、しかるべき環境で再生すると思わずひっくり返りそうになりそうなくらいド派手なサウンドが詰まったアルバムなんだけどね・・・。この曲もビリーのベースラインの立て方がうまいんだよね。ポールのギター・パートを邪魔することなく凄く印象的なベースラインを聴かせているのだ。

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1992

話題になる曲だろう。MR. BIGというよりも、RACER Xみたいということで誰が書いたかはすぐに判る。ポール・ギルバートにとってはこの手の曲を書くのは朝飯前の1曲。『Defying Gravity』制作までの準備期間が短かったこともあり、アイデアを録音してあったストックから引っ張り出してきた可能性も高い。出だしは思い切りRACER X風マイナー・キーで始まるが途中でメジャー・キーに切り替わる。

再びエリック・マーティンの言葉「”1992”ってポールが書いた曲があってさぁ、”To Be With You”がようやくヒットした頃のバンドのことを歌った曲なんだけど、曲はMR. BIGというよりRACER Xみたいなんだよ。最初はパロディかと思ったんだけど、本人、大真面目でさぁ。ポール、変な曲書くよね」まぁ、ポールもエリックには言われたくないだろうけど、確かにその曲調と歌詞の内容のギャップは妙。エリックはこういうストレートな歌詞あまり好まないのだろう。ただ個人的にはちょっと違うなぁ、と思いつつも、発言しているということは何か感じるものがあるのだろう。先にも書いたけど本当に嫌いなら黙る人なので。

ポール曰く「すべては”To Be With You”から始まっていて、あの曲がすべての分岐点だった。それを思い出していたら、この曲が生まれた」そうなのだが、これはケヴィン・エルソンが復帰したことにも関係しているように思う。

エリックは未だに違和感があるようだが、他のメンバーはかなり気に入っているようなのでこれはセットリスト入りする可能性大だ。

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Nothing At All

「1992」のような曲が収録された背景には、ある種降って湧いたかのようなアルバム制作開始のマネージャー命令があったことも影響している。とにかく曲を用意しなければならないというプレッシャーがかかったため、バンドのメインライターであるポールもエリックも、まず今持っているアイデアのストックを総ざらいする必要があった。本来なら、ポールもMR. BIGにモロRACER Xみたいな曲は持ち込まなかっただろうが、限られた時間の中での作曲ということもあり、調理前のネタが持ち込まれることとなった。しかし、逆にそれがリスナーにとっては新鮮だったことはアルバムを聴いてもらえば判るだろう。

この曲はエリックのほうのネタ・ストックから生まれた曲。先にも書いたが、エリック私生活が現在、波乱万丈でとにかく活動ということで年がら年中ツアーに出ている。一年中、歌いっぱなしの状態なのだ。彼のスケジュール見ていると喉痛めないかと心配になるほどの働きぶりなのだ。

だが、2015年以降の歌いっぱなし生活は、パフォーマーとしてのエリック・マーティンをグレード・アップさせたと思う。パート、パートでバックのグルーヴに乗ったり、逆に抗ったりするちょっとラップっぽいニュアンスも感じるこの曲などは、来る仕事拒まずのエリック・マーティンの進化が感じられる楽曲だと思う。

だいたい、アルバムのこの辺に置かれる曲は外人が言うところの「Filler(穴うめ)」みたいにとられがちだが、エリックのヴォーカル・パフォーマンスにスポットを当てるとしっかり聴きどころがある曲に仕上がっているのだ。

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Be Kind

ポール・ギルバートによるブルース探求シリーズの集大成とも言える曲。これも「レコーディングが始まっちゃうからとにかく曲書かなきゃ、さぁ、困った! そうか困った時はブルースだ」。多分そんな感じでできた曲。動機は軽いが曲は良い! 曲調は過去に自分のソロでもやっていた、LED ZEPPELIN「When The Levee Breaks」に似たヘヴィなイントロからシャッフルっぽいリズムでほんのりドゥーワップのエッセンスも加わったタイプ。このタイプのブルース楽曲はエリック・マーティンも得意とするところなので、淀みなく的確この上ない極上グルーヴが完成。歌詞はオープニングの「Open Your Eyes」同様、ポールが日常生活で思い浮かべた感情をストレートに反映させたもの。エッセイ・ロックとでも呼べばいいのかな?

 

最初聴いた時、ずいぶんあっさり終わるんだなぁ、と思ったが、7分を越える曲なのに5分30秒あたりでエンディングっぽくなって、あれ?と思った瞬間本当のエンディングがスタートする2段構えの構成だった! 今回のアルバムは起承転結がはっきりしているし、かなりヴァラエティに富んだ要素をきちんとMR. BIGのバンドの個性の基、消化しきった傑作だと思うのだが、唯一残念なのはビリーが持ち込んでくる「そこまで速くしなくてもいいじゃん!」と突っ込みたくなるファスト・チューンがなかったことだね、と思った瞬間、エリックの掛け声をきっかけにMR. BIG大暴走のスピード・インスト・ジャムが始まるのだ。そういう決着のつけ方だったのか、と思わず笑うエンディング。個人的にはこの終わり方すごく好きだねぇ。

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リリース情報

ライブ1+2 / セキュリティ・プロジェクト

MR.BIG
ディファイング・グラヴィティ

■ DXエディション
 CD+DVD IEZP-119 ¥4,000+税

■ 通常盤
 CD IECP-10344 ¥2,500+税

2017年6月21日発売

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関連アーティスト
WEB SHOP INFORMATION
 ポール・ギルバート/PG-30 Zepp Tokyo 2016.9.26 
 キング・クリムゾン オン(アンド・オフ)ザ・ロード 40thアニバーサリー・ボックス・日本アセンブル盤
ジョー・エリオット&ダウン・アンド・アウツ 「
ザ・ファーザー・アドベンチャーズ・オブ〜アーティスト:ダウン・アンド・アウツ」 太っ腹の全買特典あり。
Web盤
エリック・マーティン/Over Japan DXエディション 。2015年来日し、念願のソロ公演を実現したエリック・マーティンの7月14日赤坂ブリッツ公演に加え、各地公演ダイジェストをパッケージごとに1公演ずつ収録。
MR.BIGのライブとはまたひと味違うエリック・マーティンは必見です!
キングクリムゾン。17cmジャケット・シリーズのなかでも特異なダブル・紙ジャケット仕様。プラチナSHM+DVD Audio。好評発売中。
紫/QUASAR デビュー・アルバムから40年。時の経過を微塵も感じさせない世界レベルの珠玉のハード・ロック・アルバム完成。WOWOWエンタテインメントオフィシャルWEBショップにて好評発売中!
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