2022年2月23日に日本武道館にて開催された『CHEMISTRY 20th anniversary LIVE 最終章「PIECES OF A DREAM」』における画出し・生放送および4K収録の様子をご紹介します。
画出し・生放送・4K収録の同時運用
今回の現場では、会場内スクリーンに出す映像をスイッチングしながら『WOWOWライブ』での生放送スイッチングをする2系統での映像制作を行いました。また、収録素材を編集し後日『WOWOW 4K』にて放送するための4K収録も同時に行っています。
このような複数の目的を持った映像制作を行えるよう、WOWOWの中継車には最大3系統のスイッチングができる設備が備わっています。
今回は4K素材のスイッチングは行わないため、中継車にてHD2系統のスイッチングができるよう、スイッチャーパネル2枚の構成で臨みました。
4K収録に用いる機材
全台4Kにて素材を収録するため、カメラは以下の4Kカメラを使用しました。
SONY HDC-5500 | 7台 | |
SONY HDC-P50 | 1台 | |
SONY VENICE | 13台 | |
SONY PXW-FX9 | 3台 | |
SONY PXW-FX6 | 1台 | |
SONY α7sIII | 2台 | |
計27台 |
映画のような印象的な映像を残すために、この収録ではシネマカメラを多く使用しています。特にVENICEと呼ばれるカメラは現在トップクラスの性能を誇るシネマカメラで、大きなセンサーサイズを活かしたボケ味と階調豊かな色味が魅力です。この収録では13台のVENICEを使用しました。
用途ごとに様々なレンズを装着して撮影を行いました。
こちらは客席後方からアップでアーティストを狙う為に、107倍レンズをVENICEに装着した様子です。4K対応の光学変換(OptMag Plus)を使用することで、シネレンズだけでなく放送用の4KレンズもVENICEに装着することが可能になります。
こちらは同じくシネマカメラのFX9です。舞台上で撮影するためVENICEよりもコンパクトな構成です。
楽器の前にリモートカメラとして設置されたFX6です。コンパクトなボディを活かし、α7sIIIとともにリモートカメラとして活躍しました。
引きやクレーンなどのカメラにはシステムカメラも使用しました。4K対応のHDC-5500はノイズが少なくクリアな映像が魅力です。
VEが操作する機材
中継車には収録に必要な様々な機器が備わっており、映像を切り替えるスイッチャー、信号を整理するルーター、カメラに電源を供給し信号をやり取りするCCU、カメラをコントロールするRCPなどが満載されています。
それらを仕様通りにセッティングし、本番中はカメラの色や明るさが適正になるように調整するのがVEの仕事です。
今回の収録ではシネマカメラを多く使用しました。近年の音楽ライブ収録ではシネマカメラが用いられることが増えてきましたが、従来の中継用カメラとは扱い方が異なる部分が多いです。今回の場合、シネマカメラごとに1台ずつ用意する光伝送装置が中継車に収まりきらないため、シネマカメラ分のオペレートはトラックの荷台に簡易ベースを組むスタイルで行いました。
また、出先の収録が回っているかを監視できるよう、シネマカメラを扱う際は通常のリモコンではなく、VTRボタンを装備したタイプのリモコンにてオペレートを行います。
シネマカメラでの生放送に欠かせないのがIS-Miniです(詳しくは前回の記事をご覧ください)。今回の収録では編集工程で色を調整できるよう、S-Log3という特殊なガンマを用いて収録しています。素材としての情報は多く残るものの、そのままの映像は生放送に使えません。そこで、生放送を行う場合は全てのカメラの映像をIS-Miniに通し、Logのローコントラストな映像をグレーディング後の鮮やかな映像に変換する作業を行なっています。
写真はIS-Miniを台数の多い収録向けにカスタマイズしたIS-Towerという機材です。1台で8ソース変換できる機材を今回は3台使用しています。この作業を行うことでLog収録と生放送の両立を実現しています。
上の画像の左がS-Log3に何も当てていない映像、右がLUTを当てた映像です。LUTのデータは細かく調整することが可能であり、被写体のアーティストや作成するVEごとに様々な表現が生まれます。色や質感を通して美しい映像表現を提案することもVEの大切な仕事の一つです。
最後に
4Kでの映像収録はシステム的にも運用的にも難しい部分がまだ多いですが、きちんと撮影された映像の美しさは格別だと感じています。私自身も日々進化していく技術を勉強しながら、より美しい映像を残せるよう追求していきたいです。
リョウタ/ビデオエンジニア
入社2年目。VE志望の念願が叶い楽しみながら仕事を覚えています。推しを美しく映せる技術を身につけることを目標に日々精進して参ります!