WOWOWでは、毎年ロサンゼルスにて行われている、アカデミー賞授賞式を生中継しています。
今回は、アカデミー賞授賞式のスタジオ業務(主に色調調整)について紹介していきたいと思います。
アカデミー賞とは
アカデミー賞とは、アメリカ映画の業界関係者を中心とした団体、映画芸術科学アカデミー(The Academy of Motion Picture Arts & Science)が主催する映画賞のことで、世界中の映画作品が対象となる世界三大映画祭(カンヌ国際映画祭、ヴェネチア国際映画祭、ベルリン国際映画祭)とは異なり、授賞式前年の1年間にアメリカ国内の特定地域で公開された作品を対象に選考され、各賞(オスカー像)が送られます。
WOWOWとしては、現地放送局が製作した授賞式の映像を貰い受け、そのCM部分をこちらで製作したスタジオと差し替えて番組として生放送しています。
色調調整とは
主に映画などの映像作品において、映像の色彩を補正する作業があり、その作業をカラーコレクション、またはカラーグレーディングと呼びます。
通常、この作業をVE(ビデオエンジニア)が行い、基本的に各カメラの色や質感をカメラ本体の設定で合わせていますが、この番組ではVE担当者とは別にカラーコレクション担当者が業務にあたります。
この作業が必要な理由としては、以下の項目が挙げられます。
① 現地からの映像の色や質感が日本のスタジオで製作されているものと異なるため、WOWOWのスタジオで製作した映像を現地映像に近づけ、見劣りしないトーンにするため。
② カメラ本体の設定だけでは、作りきれない作業を別のシステム(IS-mini)で行うため。
連続した映像が切り替わる際に、色や質感がかけ離れていると違和感を覚えることがあります。
そのため①については、視聴者が現地映像とWOWOWスタジオ映像の切り替わり時にその違和感を感じさせないように調整しています。
ここがCCBOX担当者の腕の見せ所です。
②のIS-miniについて
基本的にカメラごとの色調整を行う場合、カメラ本体の設定にて行うことが多いですが、あえてそうせずに外部機器で色調整を行う場合があります。
その際に使用している機器がイメージプロセッシングシステム「IS-mini」です。
IS-miniは、映像信号を適切な色変換テーブルにより変換することができ、PCアプリケーションで操作することができます。
カメラ本体で細かな色調整を行わず、外部機器(IS-mini)を使用する理由として以下の項目が挙げられます。
① カメラが細かな色調整を行えない機種の場合。
② カメラ単体で収録しておきたい色合いと現場で使用したい色合いが異なる場合。
③ 多くの機種のカメラの色合いをマッチングさせる場合。 →カメラごとの設定では困難のため。
実際の色の違いについて
ここで実際にカラーコレクション、カラーグレーディングをした映像としていない映像を並べてみます。
(左がカラコレ前、右がカラコレ後)
比較して見ると以下の項目を挙げられます。
カラコレ前よりもカラコレ後の映像の方が、
① 発色が良く、鮮やか。
② 全体的に赤みを帯びており、温かみを感じる。
③ 壁や天井の照明部分の黒が濃くなっている。(黒が締まっている)
④ 明るい部分はより明るく、暗い部分はより暗くなっている。(コントラストが強い)
現地映像との比較ができないため、どちらの映像がより良いものなのかという点については、判断が難しいところですが、例年の現地映像は鮮やかで高コントラストなことが多いため、このような色合いに調整しました。
スタジオセットの雰囲気と色合いを近づけることができ、満足していたのですが、今年の現地映像はとてもシネマルックな淡い色合いに仕上がっていました。
全体的な色合いがかなり違うため映像切り替わり時の違和感を心配していたのですが、違和感なく見ることができたのでスタジオ映像の再調整は行いませんでした。
(どのような映像の時に違和感を覚えるのか、人の感覚は難しいものですね...)
ライブ現場でのIS-mini
話は少し変わりますが、ライブ現場でもIS-miniは多く使用されています。
特にカメラ台数が多く、様々な機種のカメラが混在するため、その色合いをマッチングさせる目的として使用されることが多いです。
またアーティストやディレクターから、シネマルックな映像にしてほしい、モノクロなイメージにしてほしいなどのオーダーに応えるためにIS-miniで色調整を行なっています
最後に
私が担当しているVE(ビデオエンジニア)業務を2つ挙げるとすれば、システムの構築と今回紹介させていただいた色調調整になると思います。システムを構築することは、大きな責任があり大変な業務ですが、VEごとに大きく変化するものではありません。
しかしカラーコレクション作業よって生み出される映像表現には、VEそれぞれ個性があり、その人の感性でしか作り出せないものがあると思っています。
ハルヤ/ビデオエンジニア
入社5年目。2年間は音声として、その後ビデオエンジニアとして中継業務にあたっています。音声と映像の知識は、思っていたよりかけ離れておらず、紐づけられる点が多いことに気付いてから映像も好きになりました。